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石川 和賢『日常の自然を独自の視角で切り取る』

~ビジュアル・マガジン「アート・トップ」9月号より~ ・・(前略)  創作という点においても、その片鱗(へんりん)は学生生活でも垣間見ることができた。 文芸同人会というサークルに所属し、また映画の製作にも関心を持っていた。 また指物に代表される日常使いの木工にはとりわけ強い関心を示していて、幾度となく話を聞く機会があったように記憶している。 今日、絵画の世界で自然を主題として創作活動を行っているのも、このような過程によるものかもしれない。 さて、実際の石川和賢の作品である。 「径」と名づけられた一連の作品群は、里山における人間社会と自然との境界線で、自然からの恩恵をうけながら生活を送る生活者の視点から描かれているような構図になっている。  四季折々の山の産物を受け、また山を切り開いて畑を作り、野菜や穀物を栽培するという生産活動に勤しんできた星霜がここに切り出されているといえる。 これは「霰」と名づけられた一連の作品群にも共通する視点で、人と自然が共生していく必要性を理解しつつも、草という植物が、そこでの生活者の活動に良くも悪くも深く関わっていることを想起させる。 また過疎地のいちじるしい里山、中山間地域での生活の厳しさが、この一連の主題に投影されているようでもある。  現在は関東、完済という物理的距離によって、彼の日常生活を窺(うかが)い知ることができないので、石川和賢が大阪近郊の、まだ少なからず自然の残っているエリアにアトリエを構え 創作活動を行っていることが、 前述の作品を含め、その作風に影響しているのではないか・・・という仮説を立てるしか他ない。 表局域ともいえるこれまでに完成した作品を拝見したところ、志向性は一貫しているように思える。 なんでもない日常の自然を個性ある視角によって表出させているのである。  年数を経るにつれ、その表現は洗練されてきているが、古くからのファンとしてはかつての「平面に表現される立体」をモチーフとした、作品それ自体に吸引力を持っているあのシリーズを、また観てみたいものである。